端午の節句は、陰陽思想では大変な忌み日。その邪気を祓うのに菖蒲湯は威力絶大といわれてきた。「尚武」「勝負」にも通じ、めでたさも別格である。
- 菖蒲は災いをもたらす毒蛇を倒した
端午の節句は別名「菖蒲の節句」ともいわれ、菖蒲との関わりが大変に深い。かつて五月五日には家の軒先に菖蒲を刺し、菖蒲鬘と呼ぶ兜を作り、菖蒲酒を飲み、子供たちは菖蒲打ちをして遊び、夜には菖蒲湯に浸かり、枕の下に菖蒲を敷いて寝るといった、まさしく菖蒲三昧の日を送った。端午の節句が比類のないほどの忌み日で「尚武」や「勝負」にも通じる菖蒲は、鋭い剣を思わせる葉の形と強い芳香が、邪気を祓うのに威力を発揮するものといわれているからだ。
菖蒲が邪気を祓うとされる理由に、こんな言い伝えがある。
昔、中国の平舒王が家臣の不忠義を責めて殺した。家臣の魂は毒蛇になり災いをもたらした。そこで王は毒蛇に見立てた菖蒲を割いて酒に入れて飲み、降魔の術を会得、毒蛇を退治した。
- 香り高い菖蒲湯を立てるコツは水に入れてから沸かすこと
菖蒲にまつわる行事のほとんどは廃れてしまったが、菖蒲湯だけは今日も盛んで、この湯に入れば夏バテしない、虫に刺されない、火災にあわない、などと言い慣らわされてきた。
菖蒲は古くはアヤメといい、サトイモ科の白菖のこと。美しい花をつける花菖蒲とは別物で、葉の形状は似ているが、花菖蒲の葉には香りがない。端午の節句近くになると花屋や八百屋で、普通よもぎとセットにして束で売られている。よもぎにも菖蒲同様、疫病・災難を祓う力があるからだ。自宅の庭に植えてある場合は根元から切ってわらや布紐で結わえる。
芳香豊かな菖蒲湯の爽快感は別格。香り高い菖蒲湯を立てるコツは、菖蒲を水の状態から入れて沸かすこと。給湯式の場合でも、あらかじめ浴槽に入れてから湯を溜める。薬草としても知られていて、古くは腹痛や虫下しに、また打ち身の治療にも使われてきた。
出典:講談社 武光誠編著「開運の手引き 日本のしきたり」